少女の想いと舞い戻った少年
既にパレードは、『小さな街の軍隊』へと差しかかっていた。
「ウチの弱小軍隊も、無事に戻って来れたんだねえ?」
「そうでも無いわよ。今回の戦で生き残ったのは、三分の一にも満たないんだって!」
人ごみの中から、戦勝パレードの明るさとは反対の声が聞こえる。
「うちの隣の、旦那さんも亡くなったのよ!」
「ウソ! まだ小さな子供が二人もいるのに……大変よねえ~?」
噂好きなオバちゃんたちの会話を、少女は胸をえぐられる思いで聞いていた。
「また、あたし達みたいなコが。舞人……」
時を置かずに、パレードの軍隊は少女の目の前から、完全に通り過ぎる。
「舞人ったら……あれだけ憧れてた、シャロリュークさんのパレードにも来ないなんて」
踏まれて黒くなった花びらと、人々が残したゴミくずだけが、風に舞っていた。
少女は日が傾くまで立ちつくしていたが、風が冷たくなったので帰ろうと思った。
夜になっても賑わいを見せる、『ヤホーネスの小都市』の中心街は、すでに眼下に遠く離れている。
幼い弟や妹の待つ教会への帰路を、足元を見ながらトボトボと歩く。
「舞人のバカ! 人の気も知らないで!」少女の目から、熱い何かが零れ落ちた。
すると少女は、教会の門の前で誰かが立っているの気付く。
雲間に隠れていた満月が顔を出し、教会を美しく照らすと、人影の顔も浮かび上がった。
「……ただいま、パレアナ。戻って着ちゃった」
「……舞人!」少女は思わず人影に飛び付いた。
「もう! 今まで何の連絡もよこさないで、どこほっつき歩いてたのよ!」
言葉とは裏腹に、少女は少年の胸に顔を埋めて激しく泣いた。
「それは……まあ色々とあって」「もう! バカ舞人……」「ゴメンな……パレアナ」
少年は、少女の栗色の髪を優しく撫でる。
「おやまあ、なんともお熱いことじゃのォ? 妾のおる前でよくもまあベタベタと……」
抱き合う二人を、冷たい眼差しで見ている『もう一人の少女』がいた。
『二人きりでは無いこと』に気付いたパレアナは、反射的に少年の胸から飛びのく。
「なっ……舞人! だ、誰よ、この子はッ!?」
パレアナの瞳に映った少女は、教会の妹たちでは無かった。
「説明してやってはどうじゃ? のォ、『ご主人サマ』よ?」
少女は漆黒の長い髪を夜風に靡かせ、紅い血のような瞳で少年を妖しく見つめている。
「じ、実は……さ。『魔王』なんだ……このコ」
舞人は、蒼みがかったボサボサ頭を掻きながら、ヘラヘラと答える。
「へ? 魔王って……??」
パレアナは、少年の突飛押しも無い答えに目を丸くした。
「エエェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
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