ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第4章・8話

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幼なじみと漆黒の髪の魔王

 双子司祭が、『死霊の王』と名乗るアンデッドと戦っていた、調度その頃……。

「もうッ、暴れないでよ! 子供じゃないんだからぁ!!」
 パレアナは、舞人から奪い取った漆黒の髪の少女を、教会の風呂に入れていた。

「どうして『闇の王』たる妾が、このような神聖な湯に浸からねばならんのじゃぁ!」
 少女は尚も抵抗し続けるが、体格差のせいか湯船から脱出できないでいる。

「おのれィ、人間の小娘ごときが! 我は魔王ルーシェリアなるぞ!!」
「はいはい、またワケのわからないコト言って。本物の魔王なら、わたしなんかがお風呂に入れてあげられるワケ無いでしょ?」

「グヌヌゥ! これには色々とワケがあってじゃなあ……ヒャアア!?」
 洗い場に出たパレアナは、ルーシェリアの後ろから抱き付くと、彼女の頭にシャンプーを引っかけて、ワシャワシャと洗い始める。

「ヌオッ!? 目に、目に液体がぁ~ッ! 染みるぅ~!?」
「ゴメンゴメン。ちゃんと目を閉じて無いからよ。ほら、洗い流すから耳押さえて」
 パレアナは、泡々になった漆黒の髪にお湯を流しかける。

 少女は猫のように身震いをすると、水しぶきが周りに飛散した。
「きゃあっ、冷たッ!!」「ムッ?……今じゃ!」「アッ!?」
 その隙を突いてルーシェリアは、教会の風呂から逃亡した。

「コラ、服を着なさい!? 年頃の女の子が裸で走り回らない!!」
 バスタオルだけ体に巻きつけたパレアナは、数分に及ぶ逃亡劇ののち、少女を捕獲する。
ふわふわのバスタオルを頭から被せると、ルーシェリアの華奢な肢体を丁寧に拭いた。

「ウヌゥ!? これは、なんとも心地の良い感触じゃあ……」
「そうでしょー?」パレアナは、うっとりした表情の少女をギュっと抱きしめる。
「ムオ! べ、別に妾は、心地よさなど求めておらぬがな?」「はいはい……」

 その時、教会が激しい地鳴りと共に大きく揺れた。
「パレアナ姉ちゃん、地震!?」「やだー、怖ーい!?」「漏れちゃう……」
夜も深くなっていたので、寝静まっていた幼い少年や少女たちが目を覚ます。

「大丈夫よ、みんな落ち着いて! 揺れはもう収まったわ。でも一体何だったのかしら?」
「アレを見よ……!」ルーシェリアは、教会の窓の外を指差す。
「……そ、そんな……街が!?」窓の向こうには、赤々と燃え盛る街の中心街があった。

「な、何なの! 一体街の中心で、何が起きてるって言うの!?」
 パレアナは、怯える幼い弟や妹たちを一箇所に集めて、両腕で抱き締める。

「ま、舞人……だいじょうぶだよね? 巻き込まれてないよね?」
 眼下に見下ろす街の中心街は、紅く染まっていた。
パレアナは、話しも聞かず舞人を放り出してしまった事を、後悔する。

「すまぬが娘よ、武器を一本借りるぞ!」
 『解除の魔法』で、地下倉庫の鍵を開けるルーシェリア。
 倉庫から剣を一本抜き出すと、左の腰に差した。

「……だ、ダメよ! その剣は呪われているんだから!」
 それは邪眼が剣先から縦に三つ並んだ、禍々しいデザインの剣だった。
「呪う? この魔王たる妾をか?」

 漆黒の髪の少女は、真紅の瞳に妖しい光を称えながら、栗毛の少女に語る。
「カーッカッカッ……! 呪いなど、我ら魔族にとってはむしろ好都合じゃ。何せ我ら魔王は、『闇の力』を魔力の根源としておるのじゃからのォ?」

 ルーシェリアが睨むと、教会の正面扉が勝手に開いた。
「……どこへ行こうっていうの? 外は危ないわ!?」
 パレアナは、必死に彼女を呼び止める。

「無論、妾をこんな体にした、張本人のところへじゃよ」
 漆黒の髪の少女は、部屋の片隅に置かれた『ガラクタ剣』に目をやる。
「仕方ないのォ……この剣も、持って行ってやるとするかえ?」

 ルーシェリアは剣を引き寄せると、蝙蝠のような小さな翼を広げ、夜空に舞いあがった。
「あ、あのコ……まさか、本当に……魔王なの!?」

 栗色の髪の少女は、小さくなっていくルーシェリアの姿を、いつまでも見守っていた。

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