バスルームの惨劇
宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアのバスルームには、大理石の大きな浴槽があって、5人の少女たちが湯に浸かっていた。
その映像を、艦橋(ブリッジ)のモニター越しに眺める、1人の少女。
「捕虜の警戒は、怠らないで下さい」
「了解です、クーリア様」
バイオレットの長いポニーテールをした、オペレーターが答えた。
「現在、バスルーム内外のカメラや制圧用の銃器も、正常に稼働できてます」
彼女は名をアンリエッタと言い、ピンク色の瞳に白い肌をしている。
「それにバスルームの外にも、オッティリアとベルトルダが控えておりますわ」
ワインレッドの編み込んだ髪の、アデリンダが口添えた。
アクアグリーンの瞳に白い肌をした彼女も、オペレーター席に座っている。
「油断は、禁物です。わたくし達は戦闘のプロでは無く、彼女たちは軍人なのですから」
不安を帯びた桜色の瞳には、モニターの中のバスルームが映っていた。
「クーリア様、心配し過ぎですよ。どうしちゃったんですか?」
オペレーター席に座った、褐色の肌に金色の長いツインテールの少女が、無邪気に問いかける。
彼女は名をフーベルタと言い、青く澄んだ瞳をしていた。
3人のオペレーター少女は、首に巻いたコミュニケーション・リングで、カメラや銃器を細かく操作している。
「ゴメンなんさい、フーベルタ。少し、神経質になっていたみたいです」
クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダは、額に手をやりながら、ブリッジ中央にある椅子に腰かけた。
「クーリア様、お飲み物でもお持ちしましょうか?」
「大丈夫ですよ、アンリエッタ。少し疲れが、溜まっていたみたいで……」
虚ろな目で、モニターを見上げるクーリア。
「なッ!?」
けれども桜色の瞳は、すぐさま大きく見開かれた。
「バ、バスルームの様子が、おかしくはありませんか!」
「か、確認します!」
慌てて作業に戻る、アンリエッタ。
浴槽全体を映していたモニターの画像が、アップになった。
「レオナ! リリオペ !?」
椅子から飛び上がる、クーリア。
モニターに映っていたのは、大理石の床に転がった3人の少女の首と、血で真っ赤に染まった巨大浴槽に浮かぶ、首無しの少女たちの身体だった。
「レ、レオナとリリオペ、それに美宇宙まで……なんてコトですの!?」
両手で口を塞ぎ、冷や汗を垂らすアデリンダ。
「ヴァ、ヴァクナ少尉、ヴィカポタ少尉の姿が、ありません!」
慌てた声で報告する、フーベルタ。
「直ぐにオッティリアとベルトルダに連絡して、浴槽に入って貰って下さい!」
「ダ、ダメです。2人も、浴室の外で……」
モニターが切り替わって、脱衣所で血まみれになって倒れている、2人の少女を映した。
「な、なにが起こっているのです! 捕虜が脱走し、あのコたちが殺されたと言うのですか!?」
「わ、わたしが、バスルームに向いま……ガハツ!?」
椅子から立ち上がったアンリエッタが、側頭部を撃ち抜かれ、頭の上半分を吹き飛ばされて倒れる。
「イヤアア、アンリエッタァーーー!?」
悲鳴を上げる、クーリア。
「良い、響きだねェ。アタシは、ソイツを聞きたかったのかも知れないよ」
ブリッジのドアが開いており、大型のレーザーアサルトライフルを構えた女性が、中へと入って来る。
「あ、貴女は……コリー・アンダーソン中佐!」
「カルデシア財団のご令嬢に、名前を憶えてもらえるとは光栄だね」
「ヒギャ!?」
再びアサルトライフルのトリガーが、1秒程引かれた。
「アデリンダァ!?」
キレイな顔に、レーザーで風穴を開けられた少女の元へと、駆け寄るクーリア。
「火星を火の海に沈めたお前でも、仲間は大切なのかい。だがね。お前が火星で流した血の量は、こんなモンじゃ無かったハズさ」
コリー・アンダーソン中佐は、最後に残ったフーベルタへと近づいて行った。
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